最高益854億円、地銀に何が起きたか
銀行の決算を、製造業と同じ物差しで読まない
福岡銀行・熊本銀行・十八親和銀行・福岡中央銀行の4行と、フルクラウド型デジタルバンク「みんなの銀行」を傘下に持つ、総資産33.5兆円規模の地域金融グループ、ふくおかフィナンシャルグループ(証券コード8354・東証プライム・福証)。本シリーズでこれまで扱ってきたのは製造業やサービス業でしたが、今回初めて銀行業を取り上げます。
銀行の決算は、事業会社の決算とは読み方そのものが異なります。たとえば同社の経常収益は2022年3月期の280,427百万円から2026年3月期の621,168百万円へ5期で2.2倍になっていますが、これを「売上が2.2倍に伸びた」と読むことはできません。銀行の経常収益には受取利息のグロス額が含まれており、金利が上がれば同時に支払利息(経常費用側)も膨らむためです。実際、同じ期間の経常費用(経常収益-経常利益で逆算)は204,341百万円から500,558百万円へ2.45倍に増えており、銀行の実質的な収益規模を示す業務粗利益(銀行の本業のもうけを示す指標で、資金利益・役務取引等利益・その他業務利益の合計。事業会社の売上総利益に近い位置づけです)で見ると221,133百万円から233,244百万円へ、5期で+5.5%にとどまります。
以下では、公開情報をもとにした財務分析を起点に、地方で中小企業支援に携わる外部支援者の実務目線で、この決算の構造を整理します。投資判断ではなく、「金利上昇という環境変化を、銀行はどう受け止めているか」を数字から確認するための記事です。
「金利が上がれば地銀は儲かる」を、5期の純利益で確認する
まず、親会社株主に帰属する当期純利益の5期推移を見ます。
(連結・単位:百万円)
| 決算期 | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 親会社株主帰属当期純利益 | 54,118 | 31,152 | 61,178 | 72,136 | 85,428 |
一見すると右肩上がりに見えますが、2023年3月期に純利益が54,118百万円から31,152百万円へ42.4%減少しているという谷があります。この1期を飛ばして「5期で1.58倍」と読むと、構造を見誤ります。
この急減の主因は、金利上昇そのものによって生じた国債等債券損益△40,344百万円でした。銀行は貸出金だけでなく、国債などの有価証券も保有しています。金利が上がると保有債券の時価は下がるため、低い利回りの債券を持ち続けるより、損失を実現させてでも高利回り債券へ入れ替える判断が行われることがあります。国債等債券損益は2022年3月期の△8,015百万円から、2026年3月期には5期で最大の**△91,156百万円**まで拡大しています。
一方で、金利上昇には恩恵側もあります。貸出金や有価証券から得る利息収入から預金等の調達コストを差し引いた「資金利益」は、181,217百万円から263,241百万円へ5期で+45.3%増加しました。同じ「金利上昇」という変数が、資金利益では利益を積み増し、国債等債券損益では損失を生んでいるという、両面を持つ構造です。
そして、この債券損益を除いた「コア業務純益」(業務粗利益から国債等債券損益を除いた「コア業務粗利益」から経費を差し引いたもので、債券の売買判断に左右されない継続的な稼ぐ力を示す指標です)は、86,281百万円から151,707百万円へ、5期連続で+75.8%増加しています。
つまり「金利上昇=地銀に追い風」という理解は、コア業務純益という一本の系列だけを見れば正しく見えます。ただし、それが親会社株主帰属当期純利益という「最終的な着地点」にそのまま反映されるかどうかは、また別の話だという点が、この5期の数字から読み取れます。
経費率(OHR)は「74.0%」なのか「53.2%」なのか
銀行の効率性を測る代表的な指標に、OHR(Overhead Ratio、経費率)があります。経費を業務粗利益で割って算出する、収益に対する経費の負担度合いを示す指標です。同社の場合、この数字の出し方によって、同じ期の評価がまったく逆になります。
| FFG連結ベース | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 開示ベースOHR(経費÷業務粗利益) | 64.6% | 72.6% | 65.6% | 61.5% | 74.0% |
| コアベースOHR(経費÷コア業務粗利益) | 62.3% | 60.1% | 59.9% | 57.4% | 53.2% |
開示ベースだけを見れば、2026年3月期の74.0%は5期で最も悪い水準です。コアベースだけを見れば、53.2%は5期で最も良い水準です。同じ会社の同じ期が、分母の定義ひとつで正反対に見えます。
どちらが正しいという話ではありません。開示ベースは実際に計上された損益(前述の国債等債券損益△91,156百万円を含む)を反映しており、コアベースはその債券損益を除いた、継続的な稼ぐ力を示しています。両方とも事実であり、目的によって使い分ける必要がある、というのがこの対比から言えることです。
過去最高益854億円の内訳を、開示原典で分解する
2026年3月期の経常利益120,610百万円は、業務粗利益から経費と与信費用(貸倒れに備えてあらかじめ計上しておく費用)を差し引いた金額とは、大きく水準が異なります。
| FFG連結(百万円) | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 業務粗利益-経費-与信費用 | 75,157 | 47,299 | 54,572 | 94,059 | 42,317 |
| 経常利益(開示) | 76,086 | 50,050 | 56,937 | 103,594 | 120,610 |
| 差額(残差) | +929 | +2,751 | +2,365 | +9,535 | +78,293 |
2022〜2025年3月期の残差は9〜95億円程度ですが、2026年3月期だけ783億円と、一桁違う水準になっています。この残差の内訳を決算説明資料の「損益の状況」表で確認すると、次のとおりです。
| 2026年3月期・FFG連結(百万円) | 金額 |
|---|---|
| 不良債権処理額 | △10,719 |
| 株式等関係損益 | +78,101 |
| 持分法投資損益 | +101 |
| その他臨時損益等 | +92 |
残差78,293百万円のうち、99.8%は株式等関係損益の1項目で説明できます。 この株式等関係損益は、前期(2025年3月期)が9,144百万円だったのに対し、2026年3月期は78,101百万円と約8.5倍に拡大しています。
この株式等関係損益について、本記事では是非を評価しません。政策保有株式の縮減は、資本効率の改善やコーポレートガバナンス上の要請への対応という文脈で、多くの上場企業が進めている取り組みでもあります。ここで確認できるのは、「過去最高益854億円」という見出しの内側に、通常の年より一桁大きい株式等関係損益が含まれているという構造そのものです。
一過性を除くと、実力はどう見えるか(見方は一方向ではありません)
そこで、株式等関係損益を純利益から除いた場合の系列を試算します。実効税率は期により異なるため、あくまで税率30%を仮定した簡便試算です。
【A】株式等関係損益だけを除いた場合
| FFG連結(百万円) | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 純利益(開示) | 54,118 | 31,152 | 61,178 | 72,136 | 85,428 |
| 同損益を除いた純利益(試算) | 52,238 | 28,679 | 58,069 | 65,735 | 30,757 |
| 同ベースのROE(期末自己資本) | 5.55% | 3.19% | 5.69% | 7.07% | 2.86% |
この見方だと、開示ベースでは5期最高だった2026年3月期が、試算では5期最低(2023年3月期の急減期3.19%より低い2.86%)に転じます。
ただし、同じ期には国債等債券損益△91,156百万円という損失も計上されています。株式の益出しと債券の損出しは、実務上セットで判断されている可能性もあるため、片方だけを除くのは公平ではないという見方もできます。そこで、両方を除いた系列も並べます。
【B】株式等関係損益と国債等債券損益の両方を除いた場合
| FFG連結(百万円) | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 両方を除いた純利益(試算) | 57,848 | 56,920 | 73,256 | 78,967 | 94,567 |
| 同ベースのROE(期末自己資本) | 6.15% | 6.32% | 7.18% | 8.50% | 8.79% |
この見方だと、系列はほぼ一貫した増加に転じ、2023年3月期の急減(開示ベースで△42.4%)も△1.6%まで縮小します。コア業務純益が5期連続で増加している姿と方向が一致します。
どちらか一方が「本当の実力」というわけではありません。 何を一過性として除くかによって、同じ5期がまったく異なる形に見える、という構造そのものが、この会社の決算を読むうえでの要点だと考えられます。
利ざやの上昇、半分は預金者に渡っています
「金利が上がれば地銀の利ざやが広がる」という説明は、方向としては正しい一方、その中身を見ると半分の話であることが分かります。
(銀行合算・全店ベース)
| 指標 | 2022/3 | 2023/3 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸出金利回り | 0.86% | 0.93% | 0.98% | 1.04% | 1.28% |
| 預金等利回り | 0.00% | 0.02% | 0.06% | 0.10% | 0.22% |
| 預貸金粗利鞘(利ざや) | 0.86% | 0.91% | 0.92% | 0.94% | 1.06% |
5期累計では、貸出金利回りが+0.42pt上昇したのに対し、預金等利回りは+0.22pt上昇、差引の利ざやは+0.20ptです。貸出利回りの上昇分のうち、およそ半分は預金者に支払う調達コストの上昇で相殺されています。 2026年3月期単年で見るとさらに明確で、貸出金利回り+0.24pt、預金等利回り+0.12pt、利ざや+0.12ptと、ちょうど半分です。
「金利が上がれば地銀が儲かる」という説明は、この意味で半分だけ正しいと言えます。残り半分は預金者に渡り、さらに前述の債券損失という形で別途コストが発生している、というのが5期の数字が示す姿です。
みんなの銀行、161万口座で5期累計239億円
同社は、既存の銀行の一部門としてではなく、別会社・別システム・別ブランドとして「みんなの銀行」を分社しています。フルクラウド型のデジタルバンクで、口座数は決算短信には記載がありませんが、同社が公表する会社説明会資料によると、2026年3月末時点で161万口座(第42回会社説明会資料p.52/2025年度決算ハイライトp.19)です。2024年3月末の96万口座から、直近2年で着実に増えています。
一方で、当期純損失は2022年3月期から2026年3月期までの5期累計で**23,991百万円(約240億円)**を計上しています。2026年3月期は5,463百万円から5,171百万円へ損失が縮小し、5期で初めて改善に転じていますが、黒字化には至っていません。
同社の内部意思決定を確認したものではありませんが、構造として言えるのは、既存の勘定系システム・事務手続き・稟議ルートをすべて引き継がずに新しい仕組みを立ち上げるという選択をした、ということです。5期累計239億円という規模は、その分社という設計に対して投じられている投資規模と読むことができます。同期間のFFG連結の純利益累計は304,012百万円ですので、その約7.9%に相当します。
黒字化の時期や採算ラインについて、本記事では推測を加えません。ここで確認できるのは、口座数の伸びと損失の規模という、開示されている2つの事実だけです。
視聴者にとって、地銀は競合であり、最有力の紹介元でもあります
このシリーズをご覧の方の多くは、地方で中小企業の支援に携わっておられると思います。その立場から見ると、地域金融機関は最大の競合であると同時に、最有力の紹介元でもあるという、少し複雑な位置づけになります。
銀行が構造的に強いのは、資金供給を伴う支援ができること、日常的な取引を通じて企業の資金繰りの実態を継続的に把握していること、融資取引の付帯サービスとして助言を提供できるため企業側が別途フィーを意識する場面が少ないことです。
一方で、銀行の担当者は複数の取引先を持ちながら融資・預金の目標も抱えているため、1社の特定業務に何日も入り込む形の支援には時間的な制約があります。また同じ商圏の同業他社を複数取引先に持つ立場では、利益が相反しうる支援には踏み込みにくい構造もあります。
この境界線の外側にあるニーズを、銀行の担当者は日常の面談の中で日常的に見聞きしています。そのニーズが外部の支援事業者に渡る経路が整備されているかどうかが、紹介の量を左右すると考えられます。銀行と競合する場面を避けながら、銀行が構造的に踏み込みにくい領域への経路をどう作るかが、外部支援者にとっての実務上の論点になります。
実務への示唆:数字を使うときは、まず「どちらの定義か」を確認する
以上の構造を踏まえると、外部支援者が同社(および地域金融機関一般)と向き合う際の入口として、次のような点が挙げられます。
- 相手が使っている指標の定義を、まず確認すること:OHRは開示ベースで74.0%、コアベースで53.2%です。どちらを前提に会話しているかが噛み合わないと、提案の前提そのものがずれる可能性があります
- 「金利上昇で地銀は儲かっている」という前提だけで話を組まないこと:資金利益は5期で+45.3%伸びていますが、同時に国債等債券損益は直近期に△911億円の損失を計上しています。同じ変数が両方向に効いているという構造を踏まえた会話が求められると考えられます
- 非金利収益(役務取引等利益)の動きに注目すること:資金利益は金利環境が押し上げてくれますが、投資信託・保険販売手数料やM&A仲介など、金利に直接連動しない手数料収益である役務取引等利益は、銀行合算ベースで2026年3月期に△7.8%減少しています。環境に依存しない収益をどう作るかは、外部の設計支援が入りやすいテーマだと考えられます
警告・注意点
- 「地銀は厳しい」という一般論には立っていません。 本記事で示したのは、金利上昇という一つの変数が、資金利益・国債等債券損益・株式等関係損益という複数の項目にそれぞれ異なる形で表れているという構造であり、経営の巧拙を評価するものではありません
- 一過性要因の除外は、A・B両方の見方を並べています。 株式等関係損益だけを除くと直近期が5期最低に、株式等関係損益と国債等債券損益の両方を除くと直近期が5期最高に近い水準になります。どちらか一方が正しいという立場は取っていません
- 株式等関係損益(益出し)の是非については、評価を加えていません。 政策保有株式の縮減は資本効率改善やガバナンス上の要請への対応という文脈でも進められるものであり、外部から動機を特定することはできません
- 一過性要因の試算はいずれも税率30%を仮定した簡便計算です。 実効税率は期により異なり、水準そのものではなく系列の形の違いを見るための参考値としてお読みください
- 店舗・人員配置に関する評価は行っていません。 これらは地域の雇用や利用者の利便に直接関わる論点であり、公開情報から評価的な結論を出すことは適切ではないと考えるためです
まとめ
- 純利益は54,118→31,152→61,178→72,136→85,428百万円と5期で推移し、2023年3月期に一度42.4%落ち込んでから過去最高を更新しています。谷の主因は国債等債券損益△40,344百万円、直近期の最高益には株式等関係損益78,101百万円(前期比約8.5倍)が含まれます
- OHRは開示ベースで74.0%(5期最悪)、コアベースで53.2%(5期最良)と、同じ期が分母の定義ひとつで正反対に見えます
- 一過性要因の除外は見方によって結果が変わります。株式等関係損益だけを除くと直近期が5期最低、株式等関係損益と国債等債券損益の両方を除くと直近期は5期でほぼ最高です
- 利ざやの上昇0.20ptのうち、貸出金利回りの上昇0.42ptに対し預金等利回りも0.22pt上昇しており、恩恵のおよそ半分は預金者に渡っています
- みんなの銀行は161万口座まで拡大した一方、5期累計の純損失は239億円で、これは分社という設計に投じられている投資規模と読むことができます
- 地域金融機関は、地方の中小企業支援に携わる外部支援者にとって最大の競合であり、同時に最有力の紹介元でもあります
この構造を正確に理解した上で対話に臨むことが、BtoB外部支援者が地域金融機関という取引先・パートナー候補と向き合う際の出発点になると考えられます。
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本記事の分析は公開情報(決算短信・有価証券報告書・会社説明会資料等)をもとにした外部支援者視点の考察です。投資判断を目的とするものではなく、同社の経営や財務戦略を批判する趣旨のものでもありません。
